磁器の制作-「磁器土・ロクロ」 すくも窯での基礎的な磁器の制作手法

【 1.磁器土 】

■ 天草スタンパー陶土

 陶石系の磁器土は日本では天草陶石の産出が最も多く安定しています。北九州では手造り用の磁器土としては天草スタンパー陶土が主です。(陶石を叩いて細粒にし水簸した粘土。粘土粒子が扁平になり粒子間の密着度が高く切れにくい)

 最も手造りに向いた磁器土の一つです。

 ボールミルで製土した天草陶石はメタハロイサイト(管状の結晶構造)のニュージーランドカオリン、カオリナイト(六角板状の扁平構造)のインドネシアカオリンやインドカオリンの粘土鉱物、長石、硅石等で調合されています。粘りは強いと言われますが私は使った事はありません。

 粘土とは異なりますが金、銀のミクロン単位の粉末微粒子も製造方法により扁平な物と角の取れた丸い粒子構造の物があります。上絵付けで丸い粒子の金、銀泥を筆でうっかり厚く盛ってしまうと焼成で溶着前に飛びます。薄く溶着した部分でも亀裂が入る事が多いです。

■ 瀬戸・美濃の磁器土

 愛知、岐阜の瀬戸や美濃では蛙目粘土と長石、カオリン、硅石の調合による磁器土で成形性の良い粘土です。ただ市場で販売されている磁器土はボールミルで調合され鋳込み成形、動力ロクロの工業生産用に調整した粘土が主です。

 手造りでは均等な厚みのロクロ挽き、均質な乾燥が出来ませんので粘土内部の応力分布の差は大きく粘土の粒子構造が扁平でないものはロクロ挽き出来ても削りや乾燥作業で切れます。手造り用に製土されていないものは注意が必要です。

 瀬戸美濃の磁器土製造元を探した中では瀬戸市内の丸石窯業で販売しているメタハロイサイト系のニュージーランドカオリンをベースにした白磁50が手捻り、タタラ、ロクロ成形が可能でした。焼き上がりは天草陶石に比べ白色度が高めです。土の粘りは強く蛙目系の磁器土とも異なる特有のものです。

 ただ20年前の事なので念のため丸石窯業のホームページを見ると天草スタンパーとの調合磁器土もあり手造り用の磁器土の種類を以前より増しています。 

【 2. ロクロ挽き 】

■ 動画 ロクロ6寸皿.wmv 12.9MB 

動画 皿挽き

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 左のビデオでは最初に基本の形を造るコテと仕上げの形をしたヘラの二つを使用しています。皿物では最初から大きく口縁を拡げると形が決まりません。

コテ・ヘラ・トンボ・シッピキ 左端より コテ(ヒノキ材)、 仕上げヘラ(ホウ)、トンボ(竹)、しっぴき(底切の縒り糸、麻やナイロン)

■ 同一形状の皿挽き  コテ・ヘラの使用 

 (1) 底部から口縁にかけて(コテが右手なら)左手の指先を土に軽く添えコテで土を伸ばしながら均します。コテを再度当て形と土取りを確認します。仕上がりの寸法はこの時に決まります。寸法の修正はこの時点で終えます。 器の口縁がコテのどの位置に来るかで寸法は確認できます。ただ寸法決めの基本はこのコテ作業の前段階の土の塊り取りでほぼ決めらています。

 (2) 指先で糸切の位置を突き当てて決めます。仕上げヘラの前に決めておかないとしっぴきで切る時に歪みます。土取りが揃っていれば指を突き当てた位置は底の肉厚と結びついていますので削りの目印になります。

 (3) 仕上げのヘラが先に口縁に当たると形は決まりません。必ず底部から口縁に沿って拡げ形を決めます。最後にピタリとへラ全面が密着し垂直に当たるようにします。この時ヘラを持たない方の手で土をあまり締め無いようにします。締めた部分が膨らみます。

 仕上げのヘラでも寸法の修整は出来ますが此処での修整は土の締りが異なってきますので挽いている時は形が揃っても乾燥段階で差異が出やすく注意が必要です。  仕上げのヘラでは同一の力、方法で形を決めるようにします。 

■ コテとヘラ

1) コテの木質

 私はコテは檜で作っています。粒子のある土物なら長く使っていると檜の木目がすこし出るかもしれません。磁器土の粒子は細かく私の作る数も知れてますのでコテの木目が浮き上がった事はありません。粒子のある土物でもそれ程問題無いと思います。木目の年輪自体は硬いので以外に長持ちします。

2) コテの断面形状 

kote kote

 普通土物のコテ断面は土をそれ程薄く挽かない事と土の硬い粒子で磨り減らないよう左写真の様に板厚半分程度の大き目の断面Rを付けます。

 磁器小物では土と大きな接触面では抵抗が強く挽き辛く私は右写真のようなヘラ(仕上げコテ)に近い断面のものを使っています。ただヘラよりは大き目の半径で1~2ミリR程度にしています。30cm径程度の器までこの形のコテを使っています。右の写真ではコテの端を少し削いでいますので断面が鋭利に見えます。(4の「ヘラの細工」参照)

 大物では強い力が加わるので断面が鋭利ではノタ切れしてしまい土物で使うような断面の団子コテを使っています。コテを使いどれだけノタを残したら良いかでコテの断面形状も変わるかと思います。

 掌や指先で土を引き伸ばし最初の形を決めたら一、二回コテを使い土を軽く伸ばしながら挽き上げコテをピタリと当て形を決めます。ヘラ程鋭利では無いので器全面に薄くノタは残るものです。

ただしコテで何回も土を伸ばすようなロクロ挽きではこの形状ではノタ切れし易く最後のヘラ作業が出来ないです。特に皿では外周部の変形量が大きいのでノタ切れに注意します。

 コテで形を決めても器全面に薄くノタが残るようにし最後のヘラをスムースに動かし形をピタリと決めノタを綺麗に取り払います。

3) ヘラ(仕上げコテ)の木質

 ヘラは硬く目のつんだ桜の赤身を良く使うようです。堅いので形作りに時間が取られますが優れた材質です。ただ繊維の強弱があり耐水サンドペーパーで十分に磨かないとザラツキは取れません。

 私は少し軟らかいですが目のつんだホウの赤身を使っています。細工し易く繊維の強弱が無く反りにくく粒子の細かい磁器土に向いています。ただ桜材に比べ軟らかい分減りは早いです。湯飲み茶碗1000個程挽いて角が少し磨り減る程度です。私はあまり数を造らないのと形の修整が多いのでホウ材のみです。

 ホウ材は版木として画材屋さんでも売られているようです。正月用の版木で学生向けの安い物は異なるもので使えません。私は瀬戸の小さな木工所で見つけ8mmの厚みに落としてもらいました。

4) ヘラ(仕上げコテ)の細工

hera

 何れの板でも概略の形を切り出したら水に数分浸け軟らかくしてから小刀で細工し、耐水サンドペーパーで滑らかに仕上げます。

 写真は6寸平皿のヘラで皿の中心に当る所を削いでいます。これは私がコテやヘラを寝かしながら斜めに挽いたりするからで中心部の土が傷付かないように削いでいます。いずれにせよ最終の形はコテやヘラを垂直に立て決めます。

 皿の仕上げコテは地域で形状が異なり瀬戸ではサシベラを良く使います。上の写真のヘラとは形状もコテの持ち方も異なります。何れにせよ皿のヘラは土を伸ばすのでは無く反り上がった縁を中心より徐々に落とし形を整えるための物です。

■ 寸法のばらつき

 ロクロに据えた土は最初と使い切った最後で位置が異なります。ロクロ挽きでの姿勢、目の位置、コテの傾き、土の固さ、土締め、乾燥速度、肉厚、多くの要素が器の寸法、形に作用します。連続的に幾つも幾日も同一形状を作り続けないと中々決められないようです。

 磁器粘土の指先にまとわり付く土の粘性の異なりや腰の強弱は指先に伝わる肉厚の感触を変え、器の膨らみ、形のバランスに影響を与えます。磁器土の種類や硬さをを変えてしまうと形も寸法も中々揃いません。ロクロ挽き前の菊練りは土の性質を知る最初の大切な作業なのです。

 皿類は縁から乾燥が始まり収縮し縁が立ち上がって来ますのでロクロ挽き直後と削りの時点で形が大きくずれます。形・寸法を揃えるのは難しいものです。

■ 自由な形状の器

 特に形を揃える必要の無い器でもコテとヘラを使っています。ヘラの形が楕円形で曲面を変えてあれば色々な形状に対応できます。ヘラの傾きを寝かしたり立てたりし曲面を変え器の形状を決めます。

 コテは土との接触面が広く抵抗が高いので土を薄く挽く事は出来ません。コテでは概略の形を決めヘラで土を軽く伸ばしながら仕上げます。小物ならヘラのみで仕上げます。

【 3.大皿のろくろ挽き 】

■ 磁器の大物挽きでは部分的に強い土締めは土の流れを止め切れの原因になります。硬い磁器土のろくろ挽きでは顕著で土の硬さにも注意します。

1) ロクロ盤上での土ころし

 私の場合は尺8寸の大皿まではロクロ回転を利用した土ころしを行い次に土を平らに押し広げます。

2) 掌で押し叩いて底部の土締め

大皿底部の締め

 平らに均した塊の中央部を掌で叩いて締め窪ませ左図のように。コテを使い凸凹を均し形や芯のブレを均します。粘土のノタが充分に無いと出来ません。水を少し含んだスポンジで均しても良いです。底の厚みは針で刺し確認します。

3) 口縁部の土締め

 膨らんだ縁をロクロ回転を利用し押し潰したり立ち上げたり均し土締めしますが、土の立ち上がりの内側のコーナーが鋭角であると磁器土ではこの部分で土の流れが止まり切れの原因になります。

4) 縁の立ち上げと拡げ

口縁の立ち上げと拡げげ

縁を横に拡げてしまうと垂れるので最初は上に立ち上げます。皿内側はコテを使い反対の指先で必ず底の底から土を締めながら延ばします。コテやヘラを使う事で土は良く締まります。

概略挽き上げたらコテと反対の指先で土を締めながら中心から徐々に縁に向かい押し広げ形を決めます。

5) 仕上げとハマ底部の土締め

大皿 仕上げとハマ低部の締め

 仕上げでは皿内側は抵抗の少ないヘラを使います。ヘラで中心から口縁部に向け徐々に押し拡げ引き延ばします。必ずヘラを持つ反対の指先で土を締めて底から延ばします。ハマ底から土を段差無く綺麗に挽き上げないと切れの原因になります。

下図の段のある形では底の土締めに斑があり切れ易いです。

 これは磁器小物や土物ではあまり問題にならないです。土物では土の粘着力が強い上に粘土間に緩衝材になる微粒子が多く適当に応力分散され切れにくいのではと私は思っています。

 成形が終ったら亀板からより糸で切り離しておきます。

 磁器土は粘りが少なく大物でも土物のように体力は使わないので細い身体でもロクロ挽きが出来ます。ただ削りで大皿を反転する時は大変で身体の腕の長さも必要です。 

【 4.削り 】

■ 削り作業

 天草陶石スタンパー粘土に比べ瀬戸、美濃の蛙目粘土系の磁器土は粘土の腰が強くより薄くロクロ挽き出来ますし乾燥強度も高めです。

 ただ洋皿のような平らな皿では削り作業はある程度乾燥させてからでないと削り作業で歪みます。粘着力の弱い天草陶石ですとかなり乾燥させてもサクサク削れますが蛙目系の磁器土では乾燥させると硬く削りづらいので注意が必要です。私は削りやすさから天草陶石の作業を主にしています。平皿では半乾きでハマの位置まで削り出し、歪まない硬さで仕上げ削りしています。

 いずれの地域の磁器土でも生の粘土強度は弱く歪ませないために土物に比べより乾燥させて削り作業をします。磁器土ではロクロ挽きより削り作業に時間を取られます。

■ カンナ

カンナ

 30年前に金物屋で一束購入したSK-5のリボン材を適当に切ってカンナとして使っています。他のSK鋼でも使えます。曲げる時折れやすいのでバーナーで赤熱してから曲げ、刃の部分をヤスリで仕上げます。

 削り刃の面は直線ではなく幾分カーブさせています。カンナの刃先中央部の磨り減りが強く、軽くカーブさせた方が刃研ぎが少なくなります。

 刃先は鋭利ですがヤスリ目を残しざらついています。超硬チップのカンナのようにツルツルでは土が少しでも軟らかいと刃が土に取られ削りにくいものです。土の柔らかさに応じてカンナの硬度を落とし刃先をつぶします。

 SK鋼ですので焼が入れられます。刃先のみ赤熱させ水冷し軽く焼を入れます。水冷で黒錆が付き錆びにくくなります。強く焼を入れるとヤスリで研げない硬さになります。削り辛くなったらヤスリで手直しします。ヤスリ目が立たないようなら刃先を軽く赤熱させそのまま空冷してヤスリで研ぎます。再度軽く赤熱し水冷で焼を入れます。

 土が硬目の時は超硬チップのカンナで作業します。天草陶石なら少し硬くなっても超硬チップでサクサク削れます。ただ硬い磁器土の削り作業は粉が舞います。薄作りの器以外は避けています。

 土を削り終わったら錆び付かないようにカンナに付いた土をきれいに除いておきます。

■ しった

 磁器の削り作業で使う「しった」は磁器土、半磁器土、瀬戸の貫入土等鉄分の少ないきめ細かい土を使用します。私の場合は素焼きせず生で使用しています。

素焼きした「しった」は普通は口縁に粘土を巻いて使用します。

削りで生の器は欠け易いので無理に押したり口縁部を「しった」に噛ませないようにします。

■ しったをロクロに据える

 生のしったでは底面を水に軽く湿らし、回転するロクロの上に据えてしったを軽く叩きながらロクロの中心に据えます。アルミ鋳物ロクロ盤では中心からずれてぴったり吸い付いてしまったら、しったの底部にステンレス板を突き当て金槌で軽く叩かないと取れません。壊れ易いので生のしったは底部を厚めに作ります。削りが終了したらしった底部を軽く叩いて外します。何日も据えて置くとアルミは腐蝕します。

 しったを何回も使用し、しったの底面中心が膨らんで来ると据わらないので底面にカンナで時々網目に引っかき傷を付けます。水分を良く含み据えやすくなります。

 欠けて使えなくなった生のしったは水に戻し粘土にし再利用します。

 素焼きのしったでは粘土をロクロ盤に薄く伸ばした上にしったの底部を湿らし据えます。次にしったの口縁を湿らせ磁器土を巻いて器の径に合わせて削っておきます。粘土が少し乾いてから使用します。

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