磁器の制作-「釉薬・灰」 すくも窯での基礎的な磁器の制作手法

【 釉薬・灰 】

磁器釉のアルカリ分として九州地方ではイス灰、瀬戸・美濃では栗皮灰が良く用いられてきました。

イス灰や栗皮灰は高価な原料ですが磁器の透明釉を作る上で今日でも有用な原料です。陶石や長石との単純な原料調合で優れた質感の磁器釉が作れます。

私は現在イス灰、栗皮灰は使用していませんが、代わりに山梨で普通に手に入る樫やクヌギの木灰を使用しています。

樫灰やクヌギ灰はイス灰や栗皮灰と異なりマグネシア、燐が多いので磁器の透明釉を作る時は石灰で半分以上割って使います。石灰で割らない場合は乳濁釉や白磁が作れます。樫などは日本各地で普通に手に入りますし鉄分も少なく優れた木灰です。

■ すくも窯の磁器釉

すくも窯で使用している磁器釉は石灰透明釉をベースに庭の樫の灰と薪ストーブから出るクヌギ、楢の灰を加えた釉薬を使用しています。昨年まで大きな樫の垣根があり毎年そこそこの灰が取れましたが、石垣を膨らまし始め手入れが出来なくなり伐採しました。時間が無く穴を掘り太い木の根も小枝もまとめてドーンと燃したため柔らかな白い灰と何時までも燃えきらぬ太い根と崩れ混ざる土に磁器用の灰取りは諦めました。路地で作るときは水を掛けながら少しずつ燃し次いで行った方が良いようです。

■ 薪ストーブでの灰作り

薪ストーブでも注意すれば焼物で使える良い灰が取れるようです。仕事場の簡単なオンドルストーブはレンガで囲ってあり最初は中々温まりませんが温まれば太目の薪がゆっくり燻りながら燃えます。私の場合は最後にくべた薪が炭になったらストーブの蓋を閉じてしまいます。余熱で翌日には炭混じりの灰になります。残った炭は必ず灰の中に埋めて燃しています。

鋳物ストーブでも路地で燃した灰でも同じと思いますが残った炭は灰の中で燃す事で少し堅めの良い灰になるようです。 

【 山梨の木灰 】

自宅の木灰は樫、クヌギ、楢が主体です。庭の樫だけでも灰を取りましたが市販の樫灰に比べマグネシア、燐の量が多いようです。クヌギ、楢も同様でした。伐採の季節や地質の差があるのかもしれません。いずれにせよ特有の灰で長石との単純な調合で海鼠調の青白い乳濁釉になります。

レンガストーブで出来る灰ですので鉄粉の混入が無く石灰で割って磁器の透明釉に使っています。

■ 栗灰

以前に地元の栗の幹と枝の薪のみで灰を取りましたがこれは楢、クヌギの灰とは随分異なりました。燐、マグネシアは少なく釜戸長石との調合で美しい透明釉が出来ました。長石と灰の単純な調合では沈殿防止のため磁器削り土を少し加えて調整しています。

調合された釉薬の粘性に拠りますが天草の磁器削り土は一割未満で調整しています。生カオリンに比べ施釉後の生での釉薬の強度があり取り扱いが楽なのです。

■ 木灰は沈殿防止に・・・

木灰は釉薬の沈殿防止にも有効です。ただアク抜きされそのまま使える状態で市販されている木灰は良質な灰であっても沈殿防止には役立たないようです。木灰製造元にアク抜き無しで木灰を求め使うたびにアク抜きし調合しましたがこの場合は沈殿防止の効果はありましたので処理方法に差があると思います。

私の場合は先ず荒めの篩(料理用の2ミリ角程度のもの)を通し塵は捨て炭は灰の中で再度燃します。あらかた塵の無くなった灰を60から80目の篩で通らぬ灰は捨て通した灰を保存しておきます。釉薬調合の都度必要なだけ水や湯で幾度もアク抜きし浮いた塵は捨て釉薬の性質に合わせた細かさの篩を再度通すだけにします。通らぬ灰のみミルで擂って使っています。

灰の大半を擂っていない事、アク抜き後乾燥せず灰粒子をつぶさずに使用している事が沈殿防止に利いているのではと思います。

市販品、自作、いずれも木灰は成分構成がばらつきますのでテストピースで焼成し確認して使用しています。 

【 樫の枝葉で木灰作り 】(2007/12/10追記)

枝葉で灰作り

2月に裏庭の10年近く放っていた数本の樫をそっくり枝落とししましたので小枝と葉のみで灰を作ってみました。レンガを敷き詰め周りをありあわせのブロックとレンガで囲み土やゴミの入らぬようにし、熾きをためてから生木ののまま燻べながら燃しました。ロストルは付けません。熾きの火力でゆっくり気長に燃し続けます。

庭に山と積まれた枝葉を2日かけて燃し、完全に燃えた後2日そのまま置きましたが灰の中には火のついた熾きがまだ残っています。そのまま灰の中で埋もれて燃えきると良い灰になるのですが雨が降りそうなのでサヤ鉢に灰を移しました。灰の中に火のついた熾きを入れ灰を被せ更に5日程放置し完全に熱が取れてから篩にかけました。

(追記12/12 路地で湿った生木を燃すときは熾きの溜まった最後に炭の露出した状態や灰の薄い状態で放っておくと熾きの火力で大半は白い柔らかな灰になり使い物になりません。燃え残りの炭は露出しないようにし、灰の量の少ない時は表層の炭は出して消壷で消し後日灰の中で燃すほうが硬めの良い灰が採れます。


篩いと蓋

篩は料理用の2ミリ角メッシュ程度のステンレス網。

0.3ミリ厚の透明塩ビシートで蓋を作り篩に少し押し込み嵌め込みます。

篩に灰を入れて篩っても灰が飛び出ぬようにします。

篩からシートを外すときにシートを摘めるよう塩ビシートの片側に突起を付け折り曲げ出しておきます。


灰・篩い・ガラス板

左がサヤ鉢に貯めた炭混じりの灰。

中央は磁器鉢の上の淵にスポンジの1センチ厚の隙間テープを貼り篩の柄の所だけ避けたもの。その上にガラス板。篩いには丸い塩ビシートで蓋がしてあリ篩いやすく灰の飛散も最小限です。篩は18センチ径程度でそんなに大きくありません。取っ手が多少長めで灰を入れた網の部分と重さのバランスが取れる物がベストです。

右のバケツは篩いに残った炭の取り置き。これは再度灰の中で燃します。灰に火の気が完全に無ければ篩った灰を袋につめてしまいます。釉薬を作る度に必要量をスイヒします。

磁器釉に使う時は乾粉のまま更に60目の篩いを通し通らぬ灰は使わずに捨て、スイヒしたものを150目を通し使っています。150目を通らぬ灰はミルで磨り併せて使用しています。また樫、楢、クヌギの枝葉の灰では燐、マグネシア、珪酸が多く乳濁しやすいので磁器透明釉では灰の半分~2/3を鼠石灰で置換え使っています。薪で使う幹の部分はCa分が多く枝葉と成分が違いますので灰は分けておきます。

スイヒ・アク抜きは私は60度の熱湯で行っています。4回程度でアク抜きは完了しますし灰の沈殿も早く2日ですみます。

私は大量の枝葉が数年おきに確保できますので灰を採っています.。もっとも山梨のような山間地域で生活基盤のある方なら近所の炭焼き小屋で残った灰を分けてもらった方が質の良い灰が手に入ります。どうしても塵が混じりますがスイヒで150目を通し石灰割で使えば磁器の透明釉用の灰として使えます。 

【 釉薬の粘性・フノリ 】(2008/3/13 追記)

木灰釉に添加する糊分は普通フノリを使います。フノリは数日で腐り臭いますが私のような月一度の窯焚きでは腐ってくれたほうが便利です。

■ フノリ

フノリはサラリとしていますので灰釉でも強めの糊分で使えます。化学糊は腐敗しにくいのですが糊の効果が切れる時がはっきりしませんし灰釉への化学糊(CMC)の添加は釉がボテ付きますので注意が必要です。灰釉でCMCはあまり使われずフノリが使われます。もしくは粘性にあまり影響しないアラビアゴムの添加も可能と思えます。(これもあまり腐らないので効果がいつまであるのかはっきりせずで、使っていません)

釉中のフノリが腐敗すると釉の粘度が変わり流動性が増します。更に新しく調合した釉薬としばらく置いた釉では釉の粘性が異なりますので釉掛けに応じた粘性の調整をします。水分量、フノリの量、釉組成の粘度分の割合、灰の量、微量の粘性調整剤等で行います。

フノリの添加量ですが私はかなり適当で500ccの水にフノリ10g程度を半日漬けてコンロで沸かして溶いたものをサラシで漉し120目の篩で通したものを使っています。15リッターのバケツに溶いた釉薬に粘性をみながら適当に入れています。

素焼素地への施釉ではそれほど添加の必要性はないですが施釉の厚みが器ごとに異なり釉の粘性調整もあり私は添加しています。生素地への施釉には更に量を増しています。

フノリ液は必ず少し残しておきカップに小分けした釉薬に多めに添加し施釉後の補正の筆塗りで使います。残ったものは冷凍し上絵の折に解凍し使っています。

■ 沈殿防止・粘性の調整

釉の最後の粘性調整に私は写真用の氷酢酸を水で半分割ったものを20リットルの釉薬に1cc以内で加え沈殿防止や粘性の増加調整をしています。食酢でも良いのですが腐敗し易いので氷酢酸に変えました。粘度分の多い釉やバリウム系統の釉は最初からボテ付いていますので添加しませんし、灰釉では長石の多い沈殿し易い釉以外はあまり使用しません。一月置くと腐敗して効果はなくなりますので次の釉掛け時に再調整します。多く加えると磁器釉では焼成後釉に筋が出ると言われます。

窯焚きごとに腐った上水を捨て新たにフノリを足し微量の氷酢酸で粘性の調整をし釉掛けしています。釉の比重はボーメで管理し、粘性はボーメの動きや柄杓で釉を流した時やかきまわした時の感触で管理しています。

■ 素焼き素地への釉掛け

生素地への釉掛けに糊分は不可欠ですが素焼き磁器素地への釉掛けで糊分が必要かは施釉の厚みによります。薄い釉掛けなら200度までの焼成に注意すれば特に必要は無いと思います。私のような個人の工房では素地の厚みの差がありますので厚みのある釉部の事を考えフノリを添加しています。

■ 薄手の素地への釉掛け

素焼された薄手の磁器素地では表裏同時に施釉すると素地に水が回り釉が剥落します。普通は片面を施釉後翌日水がひいてからもう片面に施釉します。この時も器の表裏の釉の重なりの処理が出ますので糊の添加が必要です。

片面づつ施釉できない時はフノリを添加し直射日光のもとで施釉するなり、施釉数が少なければ施釉後直ちに100度以下で温まった窯で水分を飛ばせばある程度の対応はできますが限界があります。薄手の素地への釉掛けの基本は片面づつの施釉です。 

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